人工知能(AI)の基礎的な理論を使ってコンピューターに裁判の過程を考えさせようとする研究が国立情報学研究所で進められている。多くの要素が絡んだ複雑な裁判の過程でも、必要な手続きや証拠を誤ることなく判断できる。情報化する一方で人手が不足しているといわれる裁判の新しい力となるか。
このソフトウエアはPROLEG(プロレグ)。例えば「請け負った工事の代金を支払え」というような訴えの中身と「請負契約をした」「工事が完了した」など主張に必要な事実(要件事実)を入力して実行すると、主張が認められるかどうか結論が出てくる。
プロレグは、裁判官が審理を進めるガイドラインとなる「要件事実論」というルールの体系をプログラム化したもの。AI研究で使われるProlog(プロログ)という言語で書かれている。「AIのプログラムと裁判の論の運び方には共通点がある」と開発者の国立情報学研究所の佐藤健教授は話す。
数年前、ユビキタスコンピューティングを研究していた佐藤教授は、法的にプライバシーが守られるシステムを提案した。だが法律の専門家ではないため認められなかった。
それならば、と法科大学院に入学。法律を学ぶうちに要件事実論と論理プログラミングの構造がまったく同じだと気付いたという。「誰も似ていると言わないので、私が言わないといけないと思った」と佐藤さん。法曹を目指す若い同級生らを誘ってプロレグの開発を始めた。
要件事実論は誰がどんな事実に対し立証責任を負うかを定める。民法ではこれがよく研究されており、コンピューターの応用に適しているという。ただ、裁判官の代わりを務めるのは将来的にも簡単ではないという。「裁判でこじれるのはルールに書かれてない場合どうするかという点」と佐藤教授。ルールに当てはまらない問題を解決する人間の能力にはまだまだかなわない。
当面の応用としては法科大学院の授業で要件事実論を学ぶのに使えるという。また、弁護士が証拠に抜けがないかなどをあらかじめ確認することにも役立つという。特任研究員として開発に携わる西貝吉晃さんは「弁護士などが、経験のない訴訟を担当するとき何を示せばいいかが大ざっぱにすぐ分かる。法律の実務家には利用価値がある」と語る。
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