平成20年02月18日最高裁判所第一小法廷決定
平成19(あ)1230・業務上横領被告事件刑法255条が準用する同法244条1項は,親族間の一定の財産犯罪については,国家が刑罰権の行使を差し控え,親族間の自律にゆだねる方が望ましいという政策的な考慮に基づき,その犯人の処罰につき特例を設けたにすぎず,その犯罪の成立を否定したものではない(最高裁昭和25年(れ)第1284号同年12月12日第三小法廷判決・刑集4巻12号2543頁参照)。
~(中略)~
未成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって,家庭裁判所から選任された未成年後見人が,業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合に,上記のような趣旨で定められた刑法244条1項を準用して刑法上の処罰を免れるものと解する余地はないというべきである。
被告人は、両親を無くした孫のために、家庭裁判所から選任されて未成年後見人となったが、その未成年の財産を横領してしまった、という事件。
刑法244条は、配偶者、直系血族、同居の親族との間で窃盗罪にあたる行為を行ったとしても、その刑は免除すると定めている。
この規定の趣旨については、
「親族間の財産に関する争いはその親族間で解決すべきであり、国家が刑罰を与えるべきではない。」
とする考え方と、
「親族間では、個人の財産という観念が希薄であるから、他人から財産を奪取した場合に比べて違法性もしくは責任が阻却する(論者によってどちらを、または両方を否定する、ということで数パターン。)」
とする考え方の2通りがあるが、前者がおそらく通説。
今回の事件に関して言えば、刑法244条が前者の規定であるならば、被告人は私的立場と同時に家裁から選任された後見人という公的立場に立つことから、適用はなくて有罪判決。対して、刑法244条が後者の規定であるならば、違法性が阻却されるかどうかは分かれるとしても、責任は阻却され、犯罪不成立となるだろうか。
この点に関して、最高裁は立場を明言してはいなかったが、今回の事件で、前者の立場にたつことが明言された。
ただ、昭和25年の判決を示したことは若干の疑問が。この旧判決は、単に刑法244条の規定が「特例」であることを示したのみで、その特例の趣旨については触れていないのだけれど。あえて言うならば、違法性や責任が阻却されるのならば、「特例」ではなくて「当然」の規定になるということだろうか。そう解釈することができるのならば、今回の判示は(判例変更を行うのでなければ)当然の判断と見ることもできるのかもしれない。
とりあえず、最高裁の立場は、「刑法244条の規定は政策的に、処罰を行わない、という規定」ということで固まった。
そうすると、親族の物だと間違って物を持っていったような場合や、同居の親族だと思っていたら、実は法律上の親子関係が無かった、なんていう場合には、判例の故意ないしは違法性の意識に対する見解からすると、刑法244条が働く余地はない、ということになりそう。
個人的には、身分関係について誤信があった場合には特に、重い罪にあたる事を知らなかったのだから、
刑法38条2項(*1)の趣旨より、親族相盗例を類推適用する、というのが好みなんだけど…。
*1
刑法38条2項
重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない