平成19年11月30日最高裁判所第二小法廷決定
平成19(許)5・文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件これを本件についてみると,前記のとおり,相手方は,法令により資産査定が義務付けられているところ,本件文書は,相手方(*1)が,融資先であるAについて,前記検査マニュアルに沿って,同社に対して有する債権の資産査定を行う前提となる債務者区分を行うために作成し,事後的検証に備える目的もあって保存した資料であり,このことからすると,本件文書は,前記資産査定のために必要な資料であり,監督官庁による資産査定に関する前記検査において,資産査定の正確性を裏付ける資料として必要とされているものであるから,相手方自身による利用にとどまらず,相手方以外の者による利用が予定されているものということができる。そうすると,本件文書は,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であるということはできず,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないというべきである。
民事訴訟法(以下、法令名を省略)220条柱書は、「次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。」と規定され、文書提出命令が限定的に行われるかのような表現になっています。
ところが!?
220条の「次に掲げる場合」を示している220条の4号は、「前3号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき」とされており、実際は、一般的な文書提出命令を規定したものだと理解できます。
そんな中で、今回問題となったのは、220条4号で一般的な提出命令の対象とはなるけれど、例外的に除外される場合に、本件文書はあたるのか?という点です。
これではないか、と争われたのが、220条4号ニの「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」と言えるのではないか、という規定です。
本件の文書は、監督官庁などの検査の対象にもなる、というところから見れば、この220条4号ニの文書にあたらない、というのは明白なようにも思えます。そうすると、なんでわざわざこんな事件が最高裁まであがったんだろうか、とすら、思えなくもない。
ところが、本件文書のように、銀行が相手に融資するかどうかを決定するための資料のひとつ、いわゆる「貸出稟議書」については、この文書にあたり、文書提出義務が無い、というのがほぼ確定した最高裁判例となっています。
(この貸出稟議書、実際に物を見たことはないけれど、銀行等が融資を行う際に、融資担当者が作成する書類のことで、資産状態などはもちろんのこと、相手の良いとこも悪いとこも、相手方の実態が文書だけでわかるように、けっこう何でも正直に書くらしい。)
そうすると、本件文書が貸出稟議書のように、相手方の資産状態であるとか、今後の見通しだとかを、ハッキリ、歯に衣着せず!?書くようなものなら、貸出稟議書と同様に、文書提出義務は否定されるだろうし、逆に、監督官庁の検査が入ることを重視すれば、文書提出命令は肯定される可能性が高い、と。
さて、どうしたもんだか。
一般に、文書は証拠としての価値が非常に高い。そのため、文書の有無で裁判にかかる期間どころか、結論すら変わってしまうことが多い。有名な事案としては、口約束で金を貸したから、証拠がない、なんてケース、かな。
そうすると、裁判所としては、できるだけ文書提出命令を肯定する方向で解釈を行いたいと思うのではないだろうか。
本件で、220条4号ニの、義務が否定される例外に当たらない、としたのは、なんとなく、理解できる気はする。
と言っても、これを書いた人、作った人には、なかなかツライ結果かもしれないけど、ね。
*1 銀行