平成19年03月20日最高裁判所第一小法廷決定
平成18(あ)2197 建造物損壊,公務執行妨害被告事件 所論は、本件ドアは、適切な工具を使用すれば容易に取り外しが可能であって、損壊しなければ取り外すことができないような状態にあったとはいえないから、器物損壊罪が成立するにすぎないのに、原判決が建造物損壊罪の成立を認めたのは法令の解釈適用を誤っているという。
しかしながら、建造物に取り付けられた物が建造物損壊罪の客体に当たるか否かは、当該物と建造物との接合の程度のほか、当該物の建造物における機能上の重要性をも総合考慮して決すべきものである…(中略)本件ドアは、住居の玄関ドアとして外壁と接続し、外界とのしゃ断、防犯、防風、防音等の重要な役割を果たしているから、建造物損壊罪の客体に当たるものと認められ、適切な工具を使用すれば損壊せずに同ドアの取り外しが可能であるとしても、この結論は左右されない。そうすると、建造物損壊罪の成立を認めた原判断は、結論において正当である。
マンションだかアパートだかのドアを凹ませた人の事件。家に設置(?)されているドアが建造物たる家の一部であることが確認されました。
いや、普通に考えてそりゃそうだろ。って思わなくもない判決。どうして、わざわざ上告審でこんな判断をしたのか。
この疑問の前提として一つ。
実は、日本は3審制だから3回までは争える、というのは建前に近いところがあります。と言うのも、刑事事件において、最高裁判所に上告する際には、憲法違反がある場合や、以前の判例と相反する判断がされた場合、もしくは、法解釈上重要な(だと裁判所が認めた)場合に限定
(*1)されています。こんなの、上告審で争われるような事なんだろうか、って。
なんだけれど、ちょっと調べてみて、妙に納得したと言うかなんと言うか。
建造物損壊罪の法定刑は5年以下の懲役。
器物損壊罪の法定刑は3年以下の懲役または30万円以下の罰金。
しかも、器物損壊罪の方は建造物損壊罪と違って親告罪
(*2)となる。刑の重さが全然違うんだから、そりゃぁ勝負するよ。
加えて、大正時代ではあるけれど、雨戸や板戸を壊す行為は建造物損壊罪にはならない、という判断
(*3)がなされている。
ふと考えてみると。
窓ガラスを割ると器物損壊罪になるのは、あまり争いが無いはず。
だったら、リビングにある大きな窓ガラスを割るのも、当然に器物損壊罪にならないと。
なのに、ドアを凹ませる行為は建造物損壊なのかぁ。
なんだか、バランスが取れない気もする。
あえて上告審で争った理由もわかったような気がする。
*1 刑事事件では、刑事訴訟法405条、406条参照
*2 被害者の告訴がなければ起訴されない犯罪のこと
*3 大審院判決大正8年5月13日